同じ悩みを持つ人に寄り添いたい。マンガ家の葛藤を乗り越え次のステージへ

参加者の声

双葉社のWeb・アプリ「がうがうモンスター」にて『災害で卵を失ったドラゴンが何故か俺を育てはじめた(以下、災ドラ)』(原作:霧崎雀 キャラクター原案:こずみっく)をコミカライズ連載するなど、多方面で活躍中の非常口さん。
マンガクリエイターのネクストステップを作る祭典『LEGIKA UP 2022』では、アクティブプレイヤー賞を受賞されました。
しかし、順風満帆に見える活躍の裏には、マンガ家としての“葛藤”がありました──。
今回は、非常口さんがトキワ荘プロジェクト参加中に自身の内面に向き合った経験や、マンガ家として大切にしていることについて、お話をうかがいました。

マンガのネームが描けなくて…

── 非常口さんが、トキワ荘プロジェクトに参加を決めた理由をお聞かせください。

2年前にマンガのネームが描けずに悩んでいたところ、友人にトキワ荘プロジェクトを紹介されました。
最初はどうしようかなと迷っていたのですが、その友人と母の後押しで参加を決めました。

── どのような点で迷いましたか?

私自身が人と関わるのが苦手なタイプなので、シェアハウスで自分が問題行動を起こしたらどうしよう、と心配しました。
やっぱり知らない人と共同生活をするというのが、自分にとってハードルが高かったですね。

── 実際に入居して、懸念していた人間関係はいかがでしたか?

自分がちょっと気にしすぎちゃったりとか、そのことで以前は人間不信になったりもしていました。
ですがみなさん優しくていい人だったので、不安は段々なくなりました。

── トキワ荘プロジェクト参加者との交流から、どのようなことが得られましたか?

トキワ荘プロジェクトに参加したことで、漫画家を志望する人と出会えて交流できたことがとても良かったです。
普段の生活で漫画家を目指す人を見かけることはなかなかありませんので。
他の方の漫画を見て、刺激を受けられたのもとても良い経験だと思います。

マンガ家を目指す者同士だからこそできるアドバイス

── トキワ荘プロジェクト参加にあたって重要視したことはなんですか?

どのような人達が住んでいるのか、漫画を描く環境が整っているのか、どんな講座やイベントがあるのかを重要視しました。

── 参加者のみなさんとはどのような交流をされましたか?

同時期に入居してきた漫画家志望者の人とネームを見せ合いました。
また、共有スペースの掲示板に今何の新人賞を目指しているのか、どこの雑誌の担当さんがいるのかなどを書き込み、交流を深めました。
毎週日曜に成果物を見せ合ったりして、お互いにいい刺激やアドバイスがもらえたと思います。

── 参加者との交流で、印象に残っている出来事はありますか?

トキワ荘プロジェクトの参加者さんと一緒に食事に行った時に、自分の内面の悩みを真摯に聴いてもらえて、とてもありがたかったです。
その方も、数年前に私と同じような悩みを抱えていた経験があったそうなんです。
他人の目を気にしすぎているとか、自分がやりたいことをやらずに他人が喜ぶ選択肢をとっているのではないか、など、的確なアドバイスをくださって、本当に感謝しています

── マンガ家を目指す者同士だからこそ、相手の悩みを理解し、的確なアドバイスをすることが可能なのですね。

編集者視点の意見が聞ける“出張編集部”

── 講座やイベントに実際に参加してみて、いかがでしたか?

トキワ荘プロジェクトを通じて参加させていただいた講座や出張編集部はとてもためになりました。
これからの作家業に役に立つ知識が得られたと感じています。

── 特に印象に残っているものについてお聞かせください。

出張編集部がとても心に残っています。
マンガは自分の考えていることを開示することだと考えていて、それを第三者である編集者さんが読んで意見をくださるのはとてもいい体験でした。
いいことも改善点も伝えてもらえますし、話を聞くだけでも面白いなと思いました
出張編集部とは

出張編集部とは、マンガ家志望者が出版社に作品を持ち込むのではなく、 編集者側が出版社以外の会場で作品の持ち込みを受け付けるシステムです。 トキワ荘プロジェクトでも成長支援の一環として不定期開催しています。

出張編集部とは

出張編集部とは、マンガ家志望者が出版社に作品を持ち込むのではなく、 編集者側が出版社以外の会場で作品の持ち込みを受け付けるシステムです。 トキワ荘プロジェクトでも成長支援の一環として不定期開催しています。

“アクティブプレイヤー賞”から次のステージへ

── コミカライズ連載やマンガルポなど、分野に囚われず多方面で活躍される非常口さんは、
『LEGIKA UP 2022』内の『NEXT STEP AWARD』という表彰式でアクティブプレイヤー賞(※)を受賞されていますね。
受賞の感想をお聞かせください。



2年前からずっと自分の方向性に迷っていて、チャンスがあればなんでもやろうとがむしゃらに活動してきました。
その結果賞をもらうことができて、努力を見てくれている人がいるんだなと感じられて嬉しかったですね。
アクティブプレイヤー賞とは

2021年9月から2022年10月までの活動報告をもとに、総勢60名の参加者の中から 6名の顕著な実績をあげた方に贈られる賞の一つ。 「アクティブプレイヤー賞」は、分野に捉われず多方面で活躍した方に贈られる賞です。

アクティブプレイヤー賞とは

2021年9月から2022年10月までの活動報告をもとに、総勢60名の参加者の中から 6名の顕著な実績をあげた方に贈られる賞の一つ。 「アクティブプレイヤー賞」は、分野に捉われず多方面で活躍した方に贈られる賞です。


── アクティブプレイヤー賞を受賞したことで、何か変化はありましたか?

自分のエネルギーにも限りがありますし、自分のやりたいことにもっと絞って活動できたらいいのかなと、考えるようになりました。
アクティブプレイヤー賞という一つの結果を残せたので、今後は方向性を定めて一点集中していきたいと思っています。

自分の描きたいものより、売れるものを意識していた

── 2年前、マンガのネームが描けないことを悩んで参加を決めたとのことですが、その悩みは解決されましたか?

実は参加後も、自分のネームが描けない、作品が描けないという悩みはなかなか解消せず、どんどん泥沼化していきました。
そしてこれは漫画の問題ではなく、私自身の内面の問題なのだなと自覚していきました。

── 内面の問題とは、どのようなものでしょうか。

個人制作に限ってですが、自分が描きたいものよりも、売れるものを意識しすぎているからネームが描けないのだと気づきました。
あと、作品を世に出したときの体裁を考えてしまって、自分の「好き」に振り切れず、自分に自分でストッパーをかけてしまうんです。

── それはクリエイターの誰しもが直面する問題かもしれませんね。
非常口さんは、その問題を解決するためにどのような対処をされていますか?

出張編集部の編集さんに悩みを打ち明けたら、誰にも見せないノートに自分の好きなように書いてみたらと言われて、やってみたらめちゃくちゃ楽しくて。
落書き帳に「自分はこういうのが好きなんだ!」というものを書き殴って、自分の友達になったつもりで「めっちゃいいね!」って声をかけて、感動したり楽しんだりしています。

── 自分の描きたいものに純粋に向き合える、素敵なワークですね!

── 出張編集部で親身に相談に乗ってくれる編集者さんと出会えることも、トキワ荘プロジェクトで得られる貴重な経験の一つですね。

はい。
あとは、他人の目を完全に気にしなくすることは難しいので、ちょっとは気になっても気にしすぎない。
多少気にしすぎる程度にアンテナを弱らせるようにしています。

自分と同じ悩みを持つ人に寄り添いたい

── トキワ荘プロジェクト卒業後は、どのような活動をされるご予定でしょうか。

コミカライズの仕事をしつつ、イラストレーターとしても活動していきたいと思っています。
自分の葛藤をマンガにして発表したい気持ちもあり、自主制作マンガも描く予定です。
マンガに限らず、自分と同じ悩みを持つ人に寄り添うようなイベントやサービスもやってみたいですね。

── 自分の気持ちに向き合って前進を続ける非常口さんだからこそ、描けること、伝えられることがたくさんあると思います!

「自分の意思で決めて、自分で責任を取る」

── トキワ荘プロジェクトは、どんな方におすすめしたいですか?

私のように悩んでいる人や、数年作家をやってきたけど行き詰まりを感じている人が参加すると、刺激を受けやすいのかなと思います。

── 最後に、トキワ荘プロジェクトへの参加を考えている方へ、メッセージをお願いします!

私は誰からもマンガ家を目指すことを反対されなかったので、「自分で物事を決める」ことをせず、周りが賛成ならやってみるかと半ば流されるようにここまできました。
その結果、自分のやりたいことであるはずのマンガ制作が、なぜかつらくて虚しいものになっていました。
今は、大事なのは「自分の意思で決めて、自分で責任を取る」ことなのだと感じています。
周囲の反応で選択を選ぶのではなく、自分が心からやりたいと思ったことをやり、自分で責任を取っていきたいと思います。
これからトキワ荘プロジェクトに入ってみたいと思う方も、自分の「やりたい!」という気持ちを信じて、どうしてやりたいと思うのか分析して、意思を強く持って行動してみてください。

── ありがとうございました!
非常口さんの今後ますますのご活躍を、心より応援しております!

非常口

非常口さんポートフォリオサイト


非常口さんTwitter

(取材・文/松尾しのぶ)

2023年2月21日

非常口