大切なストーリーを漫画家として届けたい―。背中を押してくれた“トキワ荘プロジェクト”

参加者の声

カナダから海を渡り、日本へやってきたカナダ系ニカラグア人のDABIN255さん。

実は11歳から漫画家になる日を思い描いていたと話します。文字通り“漫画家を夢見る少女”はやがてトキワ荘プロジェクトに住み、この夏、退去を迎えました。 

日本に来るまで、そして来日してからはどんなことがあったのでしょうか?

詳しくお話を伺いました。 

DABIN255さん
トキワ荘PJ卒業生

── はじめに漫画家をめざしたきっかけを教えてください。

私が漫画家になりたいと思ったきっかけは、漫画家にスポットを当てたドキュメンタリーでした。日本語から海外向けに翻訳された状態のものを見たのですが、

「漫画家は神様のように、白紙の状態から“世界を創る”人なんです」

という言葉があったんです。神様のような存在になりたい…というと少し語弊があるかもしれませんが、自分の思いや届けたいストーリーを漫画という形で創造できたら素敵だなと。

── それで日本に行くことを夢見て?

そうですね、11歳から漫画家を志して、16歳からは日本語の勉強を始めました。

最初にニカラグアで日本語を勉強し始めから、カナダに転居して勉強を続けました。

カナダの大学で日本語の授業を履修して、他国に転居してからもそこで受講できる日本語の授業を受け続けましたね。

── ずっと日本に対する情熱を絶やさなかったんですね。

そうですね、そして絵を描くことが本当に好きでした。思うように紙が得られないときなんて、紙がなくなるまで描いていましたよ!

それで1つエピソードがあるとすれば、ある時、母がペンタブレットを買ってくれたんですけれど、使い慣れず最初はあまり手を付けてなくて。

でも、そんなわけで紙がなくなってしまいましたから、仕方なく使い始めたんです。今思えば、それがあってデジタルにもスムーズに移ることができましたね。

── 念願かなって日本に来てからは、最初別のシェアハウスにいらしたと聞きました。

そうなんです。

トキワ荘プロジェクトのことは日本に来る前から知っていたのですが、当時は日本語能力に自信がなかったし、漫画も描いたことが無かったので、自分のことを証明するものがこれといって無かったんです。

ただとにかく「どこでもいいから日本に住みたい」と思っていましたから、条件に合うところを探して別のシェアハウスに住むことを決めました。

── そこからトキワ荘プロジェクトに入居するきっかけは?

シェアハウスにしばらく住んだ後、漫画の専門学校に通い始めました。

そのことで、やっと「漫画を描いている」「漫画家を目指している」っていう証明が自分にも備わった気がして。

前から気になっていた「トキワ荘プロジェクト」に申し込んだんです。今では本当に、トキワ荘プロジェクトに入って良かったと思っていますよ!

── 具体的にどんなところが良かったと思いますか?

トキワ荘プロジェクトに入ったことで、漫画に用いる日本語も不安な箇所は見ていただけるようになりました。

あと「文化的にどうですか?」っていうのも身近に聞ける方ができて、ありがたかったですね。

持ち込みをしようっていう勇気自体も、ここに住んでから生まれた気がします。

── 当初の目標は、入居してから帰国するまでの1年間で担当をつけることでしたよね。

そうです。カナダには同人誌を描く方はいるんですが、商業漫画家はいなくて。

だから帰国してからも商業漫画を描き続けるためには、日本で担当さんを見つけるしかなくて。

でもトキワ荘プロジェクトに入居して2か月たったくらいに、学校で描いた課題を編集部に持ち込んだら、担当さんがつきました。本当に夢みたいでした。

── 実際にトキワ荘プロジェクトに住んでみて感じたことや、学んだことはありますか?

リビングで漫画の話をしている光景をみて、感動しました。「○ページだったら、キャラを何人いれたらいいのか」とか、漫画を描いてきた経験値でほかの人にアドバイスをしていて、すごいと思いました。

オンラインコミュニティで別のハウスに住む入居者に招待してもらったディスコードで、トキワ荘プロジェクトのみんなと作業することができたのもよかったです。

私は朝から学校があって参加できなかったんですけど、毎朝デッサンの勉強をするというような朝活もありました。

── へえ!

オンラインコミュニティとは

トキワ荘プロジェクト参加者限定SNSです。
参加者同士で受賞・掲載・制作報告をしあったり、自分の“好き”を集めたマップを公開して自己紹介をするなど、情報交換の場としてハウスの垣根を越えて交流することができます。

オンラインコミュニティとは

トキワ荘プロジェクト参加者限定SNSです。
参加者同士で受賞・掲載・制作報告をしあったり、自分の“好き”を集めたマップを公開して自己紹介をするなど、情報交換の場としてハウスの垣根を越えて交流することができます。

共同生活というところでは、みんなの気持ちを大事にすることを学びました。

自分が構わないことでも、同じところに住む以上は、例えばシャワーを使う時間一つとっても配慮がないといけないって。

それだけだと制限ばかりがつきまとうように聞こえるかもしれませんが、周りの困りごとへ気遣ってくれる仲間がいる証拠でもあるんです。

── 具体的にはどんなことがありましたか?

例えばある日の夜、外で大きな音が聞こえたことがあって、何だろうと思ったら「火の用心」の巡回だったんです。

カナダでは見たことすらなかったですから、入居者に説明してもらって助かりました。

思えば日本のことを知らないと日本風の漫画は描けない、そう考えると、この日のような小さいことも、いつか漫画に役立つのかなと期待しています。

── 同じ家に仲間がいるのは心強いですね。

本当にそうですね。トキワ荘プロジェクトにいた時、夜中の2,3時まで起きて漫画を描いていたら、Wi-Fiの調子がおかしくなってしまって。

廊下にある機械を確認しに行ったら、同居のみんなもその時間まで起きて、同じようにWi-Fiの調子を気にしていたんです!

「そっか、このトキワ荘プロジェクトに住んでいる人は、自分と同じように漫画やアニメが好きで、同じように頑張っているんだ」と、仲間意識みたいなものが芽生えて、孤独な気持ちが消えていきました

カナダだと漫画が好きという仲間すら、ほとんどできなかったですから。

── 今後はどうしていきたいというのはありますか?

この前まで学生をしていましたが、23歳でまだ社会人になれていないことに負い目がありました。

これからは社会に出て、時間をたっぷり使って仕事へ集中していきたいです。

── 最後にDABIN255さんの夢を教えてください!

私にはずっとずっと描きたいと思っている話があるんです。

それを連載化して、物語の終わりまで描いて世の中に届けたいです。自分が大事にしてきた話をみんなに広められたらなと、そういう思いがとにかく強いですね。

そのためには月刊あるいは週刊、というペースに慣れる訓練も必要ですし、スピードを上げる上で、表情や擬音語…日本語だとどう表現するのだろう?というのが調べなくても出てくるようにしたいです。

もちろん現時点ですら外国では得られない知識をたくさん得られたと感じていますが、私にとっては、これからがまた新たなスタートです!

2022年2月3日

DABIN255さん