「いけるんとちゃうか」と期待して上京した25歳―。
連載獲得という夢の実現を経て、苦楽にあふれた日々を振り返る

参加者の声

自身の漫画が賞を獲得したのを機に、今の担当に勧められて鳥取から上京したAさん。住まいを探していた時に候補に挙がったのが、「トキワ荘プロジェクト」でした。
入居してまもなくアシスタントの仕事をもらい、その給与で生計を立てる日々。
「運が良かった」と話すAさんは、そこから3年目で某週刊少年誌で連載を獲得します。
 
新人賞を獲得し、「いけるんとちゃうか」と希望を抱いて上京したあの日から、めでたく連載作家としてネームや作画に追われる今日までの軌跡を、一緒にたどっていきましょう。

匿名希望さん
トキワ荘PJ卒業生
某週刊少年誌で連載中

── Aさんがトキワ荘プロジェクトへの参加を決めた理由を教えてください。

トキワ荘プロジェクトのことは、自分の好きな漫画家さんの一人・西村ツチカさんが以前住んでいたと、同人誌か何かで読んで知っていました。その時点ではもちろん自分が住むなんて具体的なことは考えていませんでしたが、上京にあたって住まいを探していた時にちょうど候補に挙がって。というのも正直どこに住めばよいかの土地勘も無ければ、十分なお金もない。トキワ荘プロジェクトに入ることで、初期費用が抑えられて住まいが確保できるというのは、楽と言いますか早く落ち着ける術として魅力的でしたね。

── それにしても上京というのは思い切りが必要だったんじゃないですか?

そうですね、上京を決めたのが25歳という年齢ですから、早くはなかったですし。鳥取にいた頃は事務職員として普通に働いていましたから、それを辞めて漫画家をめざすというのは、今思うと自分でも思い切った判断だなとは思います。
担当の方が自分のことを編集部内で推してくれていたとはいえ、蓋を開けてみればそんなに甘い世界ではなかったですしね。

── 上京当初からアシスタントの仕事をされていたと聞きましたが、それで生活費は工面できるくらいだったのでしょうか?

はい、ちょうど生活できるくらいの給料はもらえていました。

── その仕事は、担当さんが紹介してくださったんですか?

ほとんどがそうですね、上京した時点では無職でしたから、アシスタントの仕事がしたい旨を伝えて、そしたら運よく仕事がもらえました。色々な作家さんのところでアシスタントをさせていただきましたが、レギュラーで仕事がもらえた時には週3,4は通っていましたね。

── Aさんの場合、本誌掲載にはどれくらいでたどり着いたんですか?

私の場合はトキワ荘プロジェクトに入居して1年くらいですね。ちょうどその少し前に出版社が主催する大型の新人賞で佳作がとれて。一般的に佳作以上で次のステップに進めるみたいなんですが、そのタイミングでちょうど、本誌に16ページほどの空きができたという話が舞い込んできたんです。2週間くらいで書けるかと言われて、「じゃあやります!」と。単に運が良かっただけかもしれませんが、それが最初の本誌掲載になりました。

── なるほど…!でもそうなったらなったで、今度は連載権をとるまでの長い道のりが…

そうなんです。25歳という年齢には一見似合わないような、一歩一歩、着実に進むスタイルでしたね。最初が月例の賞を獲得すること、次の賞をとったら、半年に一回の大きなタイトルの賞に出して、それを経て読み切りを載せて…。王道と言えば王道なんですけれど、少なからず焦りやもどかしさみたいなところはありました。

── そうして連載獲得までたどり着いたと。

そうですね。今思えば、担当と二人三脚で、着実に経験を積める環境があったからかもしれません。

── 連載は、どういったテーマのお話を書かれるんですか?

「ホラーアクション」ですね。

── 出来上がりがたのしみです!いざ取り掛かり始めて、特に大変だったことや、苦しかった時期はいつでしたか?

記憶が新しいからかもしれませんが、連載用のネームを書いている時が一番苦しかったですね。むしろ何回か心が折れて、書くのをやめていました (苦笑)。

── 心が折れるまで…

そうなんです、実は。同じ話を何回も直さなければいけないというところが本当に大変で。ひとたび担当のOKがもらえても、次の副編集長のところで戻しが来たり、そこを超えられても編集長からまた違った指摘が来たり…誰しもが通る道なのだとは思うんですけどね。

── ではネームが決まるまでにかなり時間がかかったということですか?

はい、そもそも「ホラーアクション」っていう題材が決まるまでに半年かかっていて、そこからネームに半年くらいかかりました。

── 想像以上に長い戦いですね…でも、それを語れるのも連載作家さんだからこそです!連載になった実感はありますか?

無いですね、まだ(笑)これからかもしれません。

── トキワ荘プロジェクト在籍中に連載が決まったと思いますが、同居人の皆さんにはお祝いしてもらいました?

はい、「おめでとうございます」って言ってもらったかな(笑)。あと、みんなでピザを頼んで食べました!

── 楽しそうですね!
そういえばコロナ禍になる前は、皆さんで飲みに出かけていたと聞きました。

はい、新しい方(入居者)が入られるタイミングなど何回か飲みに行っていました。

── そこではどんな話を?

「最近どんな感じですか?」っていう各自の近況だったり、最近面白かった漫画や映画だったり…時にはお互いのネームを見せ合うこともしましたし、貴重な情報交換の場にはなっていました。

── おお…!

そういえば最近では、スカイプとかで何人か繋いで…って、同じ家にいるんですけど、各自の部屋で作業するっていうのをやっていました。

── すごい、器用ですね!

ネームを考えるときは無理かもしれませんが、作画をやるときとかは、一人でやるよりもなんとなくいいと言うか…入居者とおしゃべりする機会にもなりますしね。

── ほほえましい思い出をお聞きできて、うれしいです…!
今は連載のネームを書きためることが一番でしょうか…?

そうですね。できるだけ2,3話はためておきたいなとは思いつつ、結局1週間で1話は仕上げないと、ストックは減る一方なんです。こう話していても、やり切れるのかな…って、正直自信は持てないです(苦笑)

── 今はアシスタントの方も付いているんですか?

はい、アシスタントの方にも手伝っていただいています。

あ、そういえば、こないだ、元同居人のBさんに臨時アシスタントをやっていただいてました(笑)

── え!Bさんと言ったら、あの有名な少年誌に連載経験のある方ですよね…?

贅沢ですよね(笑)もともとアシスタントが1人足りなくなったタイミングがあって…Bさんに聞いてみたら「大丈夫ですよ」と。あぁ、トキワ荘プロジェクトにいて良かったなと思った瞬間でした(笑)

── Aさんが、こうして連載を獲得してトキワ荘プロジェクトを卒業されるというのは、今後住む人たちにとっても励みになると思います。

もう、本当にありがたいことですよね。

── これからトキワ荘プロジェクトに参加する方に伝えたいことはありますか?

伝えたいこと…そうですね、とりあえず入ってみればいいと私は思います。ずっといなければいけないという決まりがあるわけではないですし、シェアハウスが大丈夫な人であれば初期費用などの面でも助かりますし、入って損は無いかと…。

── 頼もしいお言葉です!ありがとうございました!!

2021年8月13日

匿名希望さん
某週刊少年誌で連載中