他者との出会いを制作の糧に。マンガ家がチャンスを掴む方法とは。

参加者の声

トキワ荘プロジェクト参加者で、2023年2月より月刊コミックビームにて連載が決定した野火けーたろさん。
魅力は振り切れたギャグセンス、なのになぜだか腑に落ちる、絶妙なバランス感覚です。
プロジェクトに参加してから、連載を掴んで卒業に至るまで、野火さんのマンガ制作の糧となったエピソードを深掘りします。

野火けーたろ
2023年2月より月刊コミックビームにて『助けてヘルプミー』連載決定。
pixivコミック『世界で1番頭が良くなりました』シナリオ・ネーム担当。
読み切り『春来てキメラ』月刊コミックビーム2022年4月号掲載。
講談社ヤングマガジン第85回ちばてつや賞ヤング部門準優秀新人賞受賞。

違った人生観を持つ人のマンガが刺激になる

── 野火さんは専門学校でマンガの書き方を学ばれたそうですが、ずっとマンガ家を目指されていたのですか?

卒業後の進路を考えていた時に、マンガ賞を何も受賞していないですし、担当もいない状態だったので、先生にも就職を勧められて、どうせだったらと好きな家電がある家電量販店に就職しました。

その後も、後輩が在学しているので学校に遊びに行っていて、後輩が活躍しているのを見て、ちょっと諦めきれないというか。
描かないとな、と、もう一度行動し始めました。

── トキワ荘プロジェクトに参加しようと思った理由を聞かせてください。

就職して地元広島でマンガを描いていたんですけど、高校の時からずっと東京には憧れがありました
東京だとイベント事が頻繁にあって、羨ましいなって。
就職先は転勤が続く会社で、もうやめて地元に帰ろうって思った時に、次引っ越すならお金を貯めて東京に行きたいなと。

トキワ荘プロジェクトのことは、専門学校時代に事務局の方の講演を聞いて知っていました。それで引っ越すならトキワ荘プロジェクトもいいなと、考えたと思います。

何より、マンガを描いている人たちと切磋琢磨する生活に憧れや、シェアハウスを一度体験してみたいという想いがありました。

── トキワ荘プロジェクトに実際に参加して、いかがでしたか?

トキワ荘プロジェクトには日本全国から人が集まるんですよ。育ってきた環境や人生観が違う人が、マンガっていう共通点で集まれるっていうのはすごくいいなって。

あと、やっぱり自分とは違った人生観を持っている方が書かれるマンガを見て、刺激になったりします。

── 「シェアハウスを一度体験してみたかった」とのことですが、不安はありませんでしたか?

広島から東京に上京するにあたってお金は多少溜めてはいたものの、家具や家電は何も持っていなくて。
その上知らない土地なので、「家具家電がついてるし、人もいるから、もし倒れたとしても大丈夫だよ」と、両親を納得させるための手段が“シェアハウス”でした。

なので、シェアハウスじゃないといけない、ということでもありましたね。

“マンガを描いている息遣い”を感じられる場所

アイデア出し中。作業がしやすいように部屋には広いデスクが備え付けられている

── トキワ荘プロジェクト参加後はどのように過ごされましたか?

マンガに集中しました。

トキワ荘プロジェクトに参加してからバイトをしたんですけど、それがマンガ関係の仕事だったんです。
東京だと、地方にはないマンガに関する仕事も多いので、より専念しやすいんじゃないかなと思います。

── トキワ荘プロジェクトならではの雰囲気というのはありますか?

僕は自室のドアの前に、マンガ制作の工程を書いたプレートを置くようにしています。

「ネーム中」であることを告げるドアプレート。確かに息遣いを感じる…!(提供:野火さん)

「仕上げ中」、「プロット中」のように、他の人が今何をしているのかがわかれば、集中具合や、どういう心持ちかもわかると思うんです。
そういった“マンガを書いている息遣い”を感じられる場所なのかなと。

── トキワ荘プロジェクトの活動支援の中で、良かったことはありましたか?

OBの方の座談会っていうのはすごく嬉しいですね。

卒業して第一線で活躍されている方はどんな生活をされていて、どんな心持ちで、どんな発想法を使っているんだろうとか。
トキワ荘プロジェクトで生活されていた当時の思い出や、生の声を近くで聞けるというのと、同じトキワ荘プロジェクト出身という共通点があるのもいいです。

面白いことにはなるべく関わっていたい

── 野火さんは、トキワ荘プロジェクトで出会った方々との繋がりをとても大切にされている印象があります。
皆さんと切磋琢磨し合う中で、自分や作品に大きな影響を与えたと感じる出来事はありましたか?

トキワ荘プロジェクトの入居者でマンガの話をしながら富士山に登ったことと、「ネーム見せ合い会」です。

富士山には5人で登ったんですけど、5人ともマンガ家としての状況が違うんですよね。アシスタントをしていたり、自分で連載していたり、賞を取れるかどうかで悩んでいたり。
マンガを書いているという共通点がありながら、違う状況にいる人の話を聞いたりして、自分の気持ちや意識が向上するというか、そういった影響はありましたね。

トキワ荘プロジェクト関係者5人で富士登山(提供:野火さん)

── すみません、なぜ富士山に登ることになったんですか!?

富士山に登る1ヶ月前ぐらいに、トキワ荘プロジェクトでも仲のいい人同士で食事に行った時に、「来月富士山に登るんだ」という話になって。
「僕も行きたいです」って、そのまま当日登った感じです。
面白いことにはなるべく関わっていたいなって。

── 全ての経験がネタになりますものね。チャンスを逃さずなんでもチャレンジするという野火さんのマインド、素敵です。ちなみに、入居者の皆様とはどのようなマンガの話をするんですか?

マンガの描き方や発想法は人それぞれで、話してもその人のためにならないことが結構あるんですよ。やり方が違うとか、アドバイスにもならないし、なんなら毒になる可能性があるので。

そういった話はせずに、アシスタント先の先生の話や、最近面白かったこと、マンガ家視点のマンガの感想なんかを話しますね。技法についてなどは全然話さないです。

── 本気でマンガに向き合っている人同士だからこそ、お互いのクリエイティブな部分を尊重しながら会話ができるのですね。
「ネーム見せ合い会」は、どのように行われているのですか?


せっかくだからシェアハウスならではのことをしたいなということで、毎月最終日曜日、夜9時からはリビングに集まって、ネームを見せ合おうと決めました。
でも1時間とか2時間もなく雑談に入りますけどね(笑)。

── 「ネーム見せ合い会」で出た感想が、作品に反映されることはありますか?

ありますね。
マンガを描く上で、賞に出す作品や読み切りが雑誌に載る作品は、発表するまで担当さん以外が目を通さないものになるんですよ。

担当さんのことは信頼しているんですけど、1人の人にだけ作品を投げ続けることになるので、作品が公開されるまでは暗闇に向かってボール投げ続けているみたいな。
ずっとスベっている状態で、返事が何もない中でずっと突き進んでいくような怖さがあって、他の人の意見が欲しい

ここのロジックのつじつまが合ってないような気がする、みたいに指摘してもらうことで、公開する前に不安感を軽減できるのかなと。
簡単にあらすじを言って笑われるだけでも、ああ、これはまだ間違ってないんだなぁと判断できますしね。

マンガに打ち込む地盤を固めるためのトキワ荘プロジェクト

── 野火さんがマンガを描く上で大切にされていることはなんですか?

心の余裕ですかね(笑)。

マンガは娯楽なので。娯楽ってことは自分に余裕がないと生まれないものなので、その余裕を作るためにいくつかの柱があると思うんですよ。

お金だったり時間だったり、人間関係だったりとか、生活もそうですよね。
その中のいくつかの柱を提供してくれるのが、トキワ荘プロジェクトでもあるのかなと。

何もかも捨ててマンガに打ち込むんじゃなくて、マンガに打ち込むために、それ以外の柱を大切に、地盤をしっかり固めてから取り組んだ方がいいんじゃないかなと、気をつけています。

── トキワ荘プロジェクトが、心の余裕を保つ柱の一部を担っているんですね。

── ハウス(shikiso 亀有群青)の環境の良さもあるのでしょうか。

いいですね、近くに僕が好きな遊歩道があって。

極論、前を見ずに歩ける場所なんですよ、遊歩道って。ボートをずっと凝視していても車に轢かれないというか。(笑)
ボーっとしててもいいというか。
そういった環境があってよかったなって思えますね。

── 確かに、この遊歩道をのんびり歩けば、リラックスできてアイデアも浮かびそうですね。このエピソードが野火さんっぽいです。(笑)

遊歩道はボーっとしていても車に轢かれないのが魅力(提供:野火さん)
shikiso亀有群青

創作活動に最適化し、家具家電選びをせずにいつでも引っ越し可能なクイックスタートハウス。トキワ荘プロジェクトの中でも最も小規模な住まいだからこそ、お互いのことを理解し尽くしたメンバーと少数精鋭で競い合う環境が特徴。 詳細はこちら

shikiso亀有群青

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マンガ家はマンガを描くだけでなく、営業職でもある

── 2023年2月から雑誌での連載も決まっていらっしゃいますが、トキワ荘プロジェクト卒業後の目標をお聞かせください。

僕の夢として、好きなときに好きな場所にいたいっていうのがありまして。

例えば、旅行に行ってもう一泊したい思ったときに、お金や時間や仕事の都合で諦めたくないんですよね。
そういう心持ちでいられるようにするのが今の目標ですかね。

── 具体的な戦略はありますか?

連載や単行本を発売した上で知名度を上げて何かできないかなと。
もうざっくり言うと印税とか、不労所得で暮らしたい(笑)。
でも、それが本当に叶えられる可能性がマンガにはあるんじゃないかなと。

── 野火さんはSNSも積極的に活用されていますよね。

マンガ家はマンガを描くだけでなく、営業職でもあるとも感じているので。
せっかく面白い作品ができても、読まれないともったいないなと思うので、なんとか試行錯誤しつつ頑張っているところですね。
https://twitter.com/Ryoken_mth/status/1506953283407347714

── マンガ家は営業職! 地道な努力を積み重ねてマンガ家としてステップアップして来られたのですね。

マンガの糧になる場

── トキワ荘プロジェクトを、どんな悩みを持つ人におすすめしたいと思いますか?

マンガでうまくいかないなって思っている人にこそ来てほしいと思います。

マンガを描き始めたばかりとか、何年か書いていても全然うまくいかないぞとなった人が、他の人との繋がりや、環境の変化で打破できる場所じゃないかなと。
トキワ荘プロジェクトは、絶対にマンガの糧になる場です。

── トキワ荘プロジェクトで様々な人と縁を繋いで、制作の糧にされてきた野火さんだからこそのお言葉ですね。
最後に、トキワ荘プロジェクト参加中に掴んだ新連載『助けてヘルプミー』への意気込みをお聞かせください!

初連載! 担当さんにも傑作と言っていただきました。
僕と僕に関わっていただいている方々の本気の作品です。
何卒よろしくお願いいたします。
https://twitter.com/Ryoken_mth/status/1579857020597211137

── ありがとうございました! 野火さんと、野火さんに関わられている皆様の、今後ますますのご活躍を、心より応援しております!

(取材・文/松尾しのぶ)

2022年12月14日

野火けーたろ
月刊コミックビームにて『助けてヘルプミー』連載決定。
pixivコミック『世界で1番頭が良くなりました』シナリオ・ネーム担当。
読み切り『春来てキメラ』月刊コミックビーム2022年4月号掲載。
講談社ヤングマガジン第85回ちばてつや賞ヤング部門準優秀新人賞受賞。