編集長の部屋(6)中編:comicoで連載中の作品は、どんな話を掲載するかは作家側に決定権があります。

編集長の部屋
2014.12.22

6

前編:2~3年でサービスを辞めてしまうようなことは、絶対にないです!

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「編集長の部屋」コーナー6人目は、comico編集部、北室美由紀さんです。2013年10月にサービスを開始し、現在はアプリのダウンロード数も650万を突破。連載作品も100タイトルを超えています。comicoには編集長と言う役職はないですが、編集チームのチームリーダーである北室さんにお答えいただいてます。

<comico 北室美由紀編集チームリーダー(中編)>

どんな話を掲載するかは作家側に決定権があります。     

―― comicoが、既存のマンガと違う所はどういうところですか?

まず、カラーで縦スクロールと言うところが一番大きいと思います。また表現の部分でも例えば縦スクロールの間を生かした表現だったり、空間で演出するという方法を使ったり、構図の取り方もほかと違うと思います。

 

―― そうなると、普段のマンガ作りではどういうことを打合せていますか。やはり、既存のマンガと作り方が違いますよということを説明することが多くなるのでしょうか。

やはり紙の文化で育った作家さんが多いので、最初は既存のマンガの作り方から入る方が多いように思います。でも先程お伝えしたように、スマホの縦スクロールを生かした表現方法は、紙とは違いますし、紙ではできないことだったりしますよね。サービス開始当初に比べて縦スクロールを生かした表現方法を取り入れた作品がずいぶん増えてきましたが、一方でまだまだ開拓できる余地があるようにも感じています。

これらの部分は私たちが説明する、というよりは実際に作家さんが試行錯誤を繰り返すなかで、気づきを得て作品に生かしていくという部分になるのかなと思いますね。

 

―― 普段の仕事の中で、表現の仕方の違いを指摘したりするということはありますか。

私たちの方では「違うよ」というような指摘はしていません。私たちはパートナーなので、決定権は作家にあるという状態です。ただ私たちのほうが縦スクロールマンガの特性を知っている部分もあるので、アドバイスをさせていただくことはありますが、それでも「こうしたほうが良いのでは?」という部分までしかしていませんね。作家さんのほうから相談などがあれば積極的に応じたり、アドバイスをしたりはしていますが、最終的に決めるのは作家さん自身に行っていただくというスタンスでサポートしています。

 

―― 重要なお話ですね。連載している公式作家について、どんな話を掲載するかは全て作家に決定権があるということなんですね?

基本、そうです。

 

―― 通常のマンガ雑誌などの場合、所謂「ネームが通らない」(編集部のGOが出ないので、作品が掲載されない、仕上げられない。)ということがあるわけですが、comicoにはそれがないと??

えぇと、読者視点でみてあまりに何を描いているか判らない時は、さすがにどうでしょうかという投げかけはします。でも、作家さんご本人がどうしてもそれで行きたいという時は、それで掲載します。

 

―― ボツということが、普段の仕事にはないんですね。

基本的にはないです。何かあれば作家さんと話し合いをします。ただ繰り返しになりますが、最終的には作家さんにゆだねています。

 

競合を意識するよりもこの市場を盛りあげたい。  

―― デジタル媒体で競合として意識しているところはありますか?

電子コミックの分野はまだまだこれから市場が拡大する途中ですし、そもそもマンガは併読利用があるサービスですので、他のサービスとともに一緒にこの市場を盛り上げていく、この市場をさらに大きくしていくことの方が大切だと思います。まだ、どこかを意識するあまりcomicoの本質的な価値を見失うことがあってはいけないので、他を意識することよりもcomicoとしてサービスの質だったりラインナップする作品のクオリティを高めていくことの方が大事だと思っています。

 

―― いつまでにマネタイズが出来なかったら、事業をやめるというような時期を決めてはいませんか。

会社としてゲームに次ぐ大きな柱に育てようとしていますし、ここまでのユーザー規模に成長しかつ紙で出版されるような作品が続々生まれてきている中で、事業をやめるという選択肢はむしろないと思います。

 

―― comicoは大きくなりましたが、これはどうやって広がっているでしょうか?

ネット発の口コミによる広がりが大きいなという印象を持っています。comicoをTwitterで検索してもらうとわかりますが、実際、作品への感想が多くみられると思います。また作家さんだけで70人程がTwitterをしているのですが、その辺りもあるのかなと思いますね。作家さん達も、どんどんTwitterで宣伝したり、読者さんと直接話したりしていますし。comicoの作家さんたちも、comicoがまだサービスを開始して1年しかたってないからか、自分たちでもなんとかしようと思ってくれているところがあると思います。作家さんも私たちをみる視点が、対企業というよりは同じ船に乗る仲間としてみてくれているような気がしますね。

あとはWeb広告やテレビCMなどによる広がりも当然あります。Web広告などはサービスとの親和性が高いですし。8月はcomico初となるテレビCMを展開しましたが、これも効果的だったと思います。

 

―― ここまで聞いて思ったのは、掲載権限が作家側にあるということが、そういう仲間意識を呼んでいるように思います。掲載を編集部が決めてないとなると、責任を編集部に転嫁できませんからね。出版社や編集部が悪いとは言えませんからね。

いえ、それでも私たち編集に半分の責任はあると思っています。

0sakuedo筆者がマンガHONZでレビューを書いた『咲くは江戸にもこの素質』のように、comicoには、奔放で新しい発想の作品も多い。 

『ReLIFE』の単行本については広告を打っていません。  

―― 『ReLIFE』の単行本は、発売早々に10万部を超えたようですね。

2巻トータルでの刷り数は40万冊に達しました。

 

 

―― 初めて単行本としては凄い数字だと思います。広告戦略など教えてください。

『ReLIFE』の単行本については広告を打っていません。

 

 

―― え!そうなんですか!?

はい。実際におこなった取り組みとしてはプレスリリースで書籍化を発表した以外に、Twitterとcomicoのお知らせで告知しただけですね。先程も触れたようにcomicoの場合、読者さんの口コミによる広がりがすごいので、それが宣伝の役割を果たしたのではないかと思っています。

 

 

―― 『ReLIFE』が売れた件について、ある方の分析を聞きました。「通常、comicoのようなWebに連載する形の電子コミックが単行本を出す場合、雑誌が書店にはないので単行本は苦戦する場合が多い。ただ、『ReLIFE』については、予約開始と同時にずうっとamazonで上位にランキングされ続け、それをcomicoのTwitterアカウントでずっと話題にしていたので、それを見た書店が強めの注文を入れたのではないか。」とのことでした。そうなると、要は、なぜamazonで発売前の予約で多くの注文が入ったかと言うことがポイントかと思うのですが。

いや、自分たちでも判らないんです。ただ、comicoのアクティブユーザー数はかなり大きくなっているので、そういう結果になったのかなと思います。『ReLIFE』の書籍化は完全に私たちの予想を超えていました。

 

 

―― この単行本の売上について、印税は作者さんにお支払しているのですか?

はい。もちろんそうです。原稿料やインセンティブとは別に印税としてお支払いしています。

 

 

―― 『ReLIFE』はcomicoの看板作品になったと思います。このヒットを受けて、comico全体として作風が『ReLIFE』に寄って来るようなことはありましたか。

ないですね。作家さんが好きなものを描くということがcomicoというサービスですので。私たちが「売れるためにはこういうものを描くように」とは言いませんし。

 

 

―― 作家さんにもそういう意識はないですか。『ReLIFE』に寄せた方が売れるかなぁ?とか。

comicoは、投稿が起点のサービスなので、そういう人は少ないとは思います。私たちの方では、作家や作風の個性を最大限尊重し、まずは自分の好きなものを描いてもらえるようにアドバイスするようにしています。

ただ、たま~に『ReLIFE』を見て、話や絵柄を寄せようとする人がいるのですが、逆に私たちの方から「そういうのが描きたいわけじゃないんじゃないですか?」と、やんわり言うと「そうなんですよねぇ。。。」と、自分のやりたい方向に戻られるということは、まれにあります。

 

 

―― comico作家として一人前になれる人、なれない人というものはありますか?

色々あるのですが、「まず売れたい」というところから入る人はなかなか難しいような気がします。描きたいものから入ってくる、情熱がある人が結果として読者から良い評価を受けている印象ですね。また既存のやり方にこだわらず、柔軟にcomicoでの戦い方に対応できる人が伸びているようにも感じます。たまに「紙の出版社ではこうだった。」「普通の編集者さんはこうです。」みたいな話がでることがあるのですが、comicoでは従来の感覚とは別の捉え方をしないと上手くいかないことが多いかなぁ、という印象です。

 

 

―― 編集部全体を通した編集方針のようなものはありますか。

あります。ただ、まだサービス自体が新しい取組みなので、完全に固まっているわけではありません。その分、編集部のスタッフの考え方、意識あわせは頻繁に行っています。うちの編集部は、本当になんでも話し合いをしますね。編集スタッフは、全員一つのフロアに背中合わせで座っていますので、そこで何かあれば全員がすぐに集まってこの表現がOKかNGかを全員で見て話し合っています。

 

<中編ここまで>

後編:編集者の仕事は、その人の光を見つけて作家さんを導く人、パートナーだと思います。

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「編集長の部屋」過去の記事など目次

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野

hirokane

あの『島耕作』がcomicoに登場!弘兼憲史がチャレンジに!?

弘兼憲史氏の「画業40周年」の新しい試みとしてcomicoにフルカラー&縦スクロール形式で、他の新人作家に混じってチャレンジ投稿という企画と言うか取組と申しますか。同作は、Dモーニングにも通常のマンガ形式で掲載されており、両方読み比べるとなかなかの味わいです。

 

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